全ての真実は、虚無を取り除くことより生み出される

歴史物系統

自分としては珍しい歴史小説風な短編物。
〜以下本編〜
3      烏巣の断末魔 その3
 (王道が、天下を治める、か…)
 その日の夜、曹操は一人、床に横にならず、夜空の星を眺めていた。
 (大徳を以って人が集い、天下へ上る竜が如く飛躍せんとする英雄、劉玄徳…それが王道ならば、儂の道は人の道を制していく覇道…天下をその手中に収めんとする覇道、か)
 曹操は考えながら、ふと寝床に置いてあった自らの愛剣『倚天の剣』を見つめ、ふと手に取り、すっと引き抜くと、月の光に剣を映し出して、しばらく剣の反射する光を眺めていた。
 (他人の全てを踏みつけてでも先に行く。そして天下を治める。それが、正しいことなのかどうか…それは、今考えるべきなのか、それとも…)
 曹操は悩みぬいた末、剣を鞘に収め、そして再び外に目線を送った。
 「…全ては、時が経てば分かること、か」
 
 翌朝、一睡もしなかった曹操だが、眠い様子など一つも見せず、集った幕臣たちを前に言葉をかけた。
 「捕らえた袁紹軍の将において、降伏する者は仲間とせよ。ただし、反抗する意のあるものに関しては、即刻処刑するように」
 「は?と、殿、本気ですか?」
 郭嘉が不意を突かれた様子で慌てて言葉を返したが、曹操は特に気に留めずに、言葉を続けた。
 「うむ。もはや、猶予など与えん。今後も、儂はこうした方針で行く。逆らうものは全て消す、良いな!?」
 「ははっ」
 そこにいた幕臣たちが慌てて頭を下げ、曹操はその様子を見ながらふと外を眺めた。
 (…儂は覇道を進む。全てに覇を唱え、全てを覇に伏してくれる。これが儂の天下を治める方法よ。淳于瓊よ、あの世で儂のことを見ておれ。この世を、覇道で治めてみせるわ)
 曹操が天を見つめる様を、荀ケは少し不思議そうに見つめながら、微笑をもらした。
 「……」
 
 数日後、淳于瓊の処刑がなされ、相次いで河北一帯に曹操軍の手が伸びた。一時期は天下に手を伸ばさんとしていた袁紹軍も、曹操軍の勢いのままに飲まれ、曹操はそのまま天下に覇道を唱えようとする。
 だがその裏で、捨てきれなかった情を捨てるために、このようなやりとりがあったのかどうかは定かではない。
更新日時:
2006/04/11
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Last updated: 2006/4/11
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