(王道が、天下を治める、か…)
その日の夜、曹操は一人、床に横にならず、夜空の星を眺めていた。
(大徳を以って人が集い、天下へ上る竜が如く飛躍せんとする英雄、劉玄徳…それが王道ならば、儂の道は人の道を制していく覇道…天下をその手中に収めんとする覇道、か)
曹操は考えながら、ふと寝床に置いてあった自らの愛剣『倚天の剣』を見つめ、ふと手に取り、すっと引き抜くと、月の光に剣を映し出して、しばらく剣の反射する光を眺めていた。
(他人の全てを踏みつけてでも先に行く。そして天下を治める。それが、正しいことなのかどうか…それは、今考えるべきなのか、それとも…)
曹操は悩みぬいた末、剣を鞘に収め、そして再び外に目線を送った。
「…全ては、時が経てば分かること、か」
翌朝、一睡もしなかった曹操だが、眠い様子など一つも見せず、集った幕臣たちを前に言葉をかけた。
「捕らえた袁紹軍の将において、降伏する者は仲間とせよ。ただし、反抗する意のあるものに関しては、即刻処刑するように」
「は?と、殿、本気ですか?」
郭嘉が不意を突かれた様子で慌てて言葉を返したが、曹操は特に気に留めずに、言葉を続けた。
「うむ。もはや、猶予など与えん。今後も、儂はこうした方針で行く。逆らうものは全て消す、良いな!?」
「ははっ」
そこにいた幕臣たちが慌てて頭を下げ、曹操はその様子を見ながらふと外を眺めた。
(…儂は覇道を進む。全てに覇を唱え、全てを覇に伏してくれる。これが儂の天下を治める方法よ。淳于瓊よ、あの世で儂のことを見ておれ。この世を、覇道で治めてみせるわ)
曹操が天を見つめる様を、荀ケは少し不思議そうに見つめながら、微笑をもらした。
「……」
数日後、淳于瓊の処刑がなされ、相次いで河北一帯に曹操軍の手が伸びた。一時期は天下に手を伸ばさんとしていた袁紹軍も、曹操軍の勢いのままに飲まれ、曹操はそのまま天下に覇道を唱えようとする。
だがその裏で、捨てきれなかった情を捨てるために、このようなやりとりがあったのかどうかは定かではない。
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